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書評「カーデュラ探偵社」


↑河出文庫「カーデュラ探偵社」リッチー・ジャック【著】駒月 雅子【ほか訳】

 日光が苦手で夜だけ活動する、鋭い糸切り歯が生えている怪力の持ち主。空を飛ぶこともできる。そんな探偵カーデュラが主人公の短編を8篇、他にも「無痛抜歯法」などの短編を5編収録しているのが「カーデュラ探偵社」だ。

 

 

 8篇あるカーデュラ・シリーズの中でも異色を放っているのが第1作の「キッド・カーデュラ」だ。金に困ったカーデュラはボクシングのジムを訪ねる。プロボクシングの試合に出て一財産稼ごうというのだ。ジムに所属していた若者をすぐに倒し、ジムのオーナーにも勝って実力を認められたカーデュラはボクシングの試合に出始め、順調に金を稼ぎ始めた。しかし、カーデュラはオーナーにプロボクサーを辞めようと思うと話し始める。

 

 

 この通り、カーデュラは「キッド・カーデュラ」においては探偵ではなくボクサーとして活躍する。けれども、カーデュラの魅力が薄れることはなく、人間をはるかに上回る力と丁寧な物腰、時折出てくる正体を匂わせる発言が絶妙なバランスで混ぜ込まれ、楽しく読むことができる。

 

 

 「キッド・カーデュラ」の他7篇においてもカーデュラの正体は明かされない。ただ物語の随所で口の端から鋭い歯が見えたり、日光を嫌ったり十字架に怯んだりするような描写が挟まれる。こう見ると特殊能力を持った探偵という設定に頼ったお話と思われる方もいるかもしれない。決してそんなことはなく鋭い頭脳で真っ当に謎解きが行われて犯行方法や動機が明らかになり、オチも捻りの効いたユーモアに溢れるものになっている。

 

 

 誰もが知る正体を仄めかす台詞が愉快で、簡潔な読みやすい文章や勧善懲悪ではないものの腑に落ちる結末など気軽に読める短編集だ。読書の秋に読む本を探している人はぜひ手に取ってみてほしい。